Highlighting the launch of Raspberry Pi Pico 2 and RP2350, which expand the reach from hobbyists to professionals, offering dual-core RISC-V and ARM Cortex-M integration for diverse project needs.
相模原市で IoT 設計を受託しているファームロジックスです。残暑お見舞い申し上げます。立秋を過ぎましたが、相模原はまだまだ 35度の最高気温が続いています。今年は例年にも増して、クマゼミが夏空を賑わしているようです。
自作工作家からプロまでターゲットを広げた Raspberry Pi Pico 2
仕事柄、新しく発表されるマイコン(マイクロコンピュータ = MCU)には日頃から関心を持っていますが、今回 Raspberry Pi Foundation(ラズパイ財団)から発表されたマイコン RP2350 は、久々に興味深い製品です。
Raspberry Pi Pico を御存知の方は多いかと思います。2021年にラズパイ財団から発表された RP2040 (Pi Pico に搭載のマイコン)は、その価格性能比で一躍注目を浴びました。Pi Pico はわずか 4ドル(RP2040 チップ単体だとわずか 0.7ドル)で入手可能な高性能 32 ビットマイコンボードということで、アマチュア工作家(maker culture)の間で、急速に利用が広まったのです。
しかしながら多くの企業技術者からは、昔から一般によく知られた STMicroelectronics、NXP Semiconductors、Microchip とは違い、Raspberry Pi Foundation というアマチュア工作家向け製品に特化している団体から発表されたマイコンということで、「RP2040 って、製品設計に使っても大丈夫なんだろうか?」と、少し距離を置いて見られてきたのではないかと思います。
実際、ファームロジックスでも、取引先からマイコンの選定を依頼されたとき、RP2040 を「今後、注目していくべきマイコン」として紹介してはきたものの、「御社の製品設計には、是非 RP2040 を!」と推奨するには、少々不安を感じるものでした。
RP2040 の成功と実績を引っ提げて登場した RP2350
今回発表された RP2350 は、RP2040 の maker culture における成功と、ユーザーからのフィードバックを得て、Raspberry Pi Foundation が自信を持って発表したマイコンではないかと思われます。マイコンチップ RP2350 だけではなく、新たに Raspberry Pi Pico 2 というマイコンボードも一緒に発表されました。
マイコンボードの価格はなんと 5ドルです。電子工作に興味のある小学生に安心してお勧めできる価格であるのはもちろん、チップ単体も安価に提供されるのはほぼ間違いなく、プロにとっても無視できないデバイスとなることでしょう。
驚くべきことに(驚くにはあたらないかも知れませんが)、今回の RP2350 では、発表と同時に多くのサードサプライヤから RP2350 搭載のマイコンボードが発表されました。
これを見ると、有名な Adafruit、SparkFun、Seeed Studio 社だけでなく、多くのメーカーから個性的なボードが発売されることが分かります。どれも面白そうなボードで、試作時の選択に悩むことになりそうです。
RP2350 ってどんなデバイス!? RP2040 から何が変わった?
今回発表された RP2350 の詳細なスペックはデータシート(PDF)を御覧頂くとして、同財団のマーケティングをよく表現していると思われるキーワードを、RP2350 のホームページで見て参りましょう。
初めてデータシートを見られた方は、そのページ数に驚かれるのではないでしょうか。なんと、1300ページ以上もあります。RP2040 のそれに比べると 2倍以上の厚さ(?)になっています。
プロの方は普段から、デバイスメーカーから提供される膨大なマニュアルに見慣れているかと思いますが、また私も前職時代に鍛えられたつもりでいましたが、いまは同僚もおらず、一人で 1300ページを超えるマニュアルを読むことになるかと思うと、「RP2350 とは、気合いを入れて付き合わないといけないぞ」という気分になります。
それだけ、高機能なデバイスであるということは間違いなさそうです。
RISC-V を搭載
最初に目を引くのは、従来の ARM Cortex-M コアに加えて、150MHz で動作する RISC-V(RV32IMAC+)のデュアルコアを搭載してきたことです。面白いことに、折角 ARM × 2、RISC-V × 2 を搭載しながら、同時に利用できるのはそのうち 2コアに限定されています。
この背景ですが、将来的には低コストな RISC-V への移行を見据えつつ、ARM Cortex-M 搭載でないと利用に躊躇するような企業ユーザーに対して、安心感を与えるための戦略なのでしょうか。通常の製品設計であれば、4つのコアを載せながら 2つを寝かせておくのは、ダイサイズ(チップ面積)の無駄にしかならないからです。(ダイサイズは、デバイスの価格に直結します。)
あるいはもしかすると、1つの製品ラインナップで複数のニーズを同時に満たそうという理由があるのかも知れません。搭載された RISC-V コアには浮動小数点ユニットが実装されていないため、浮動小数点演算を高速に実行したいアプリケーションでは、今回新たに搭載された ARM Cortex-M33 コアが必要になるかも知れません。
搭載されている RISC-V コアは、Hazard3 と呼ばれるデザインによるもので、RISC-V International のニューズレターによると、この Hazard3 は Apache-2.0 のオープンソースとして設計が公開されているものだそうです。(たぶん、この GitHub ページにあるものだと思います。)
このようなオープンソースライセンスのプロセッサを搭載したことにより、Raspberry Pi Pico 2 は、アマチュア工作家にさらに広く受け入れられることになるかも知れません。
その他の拡張や変更を RP2040 と比較
次にデータシートを見てみましょう。データシートの導入部(Chapter 1. Introduction)から分かる範囲で、プロセッサコアの変更を含めて、RP2040 と RP2350 の違いをまとめてみます。(データシートの版は、build-date: 2024-08-08, build-version: fb11a68-clean を参照しています。)
プロセッサ
- RP2040: Dual ARM Cortex-M0+ @ 133MHz
- RP2350: Dual Cortex-M33 または Hazard3 プロセッサ @ 150MHz
- 改良: プロセッサの種類を強化し、クロック周波数も向上。
メモリ
- RP2040: 264kB オンチップ SRAM
- RP2350: 520kB オンチップ SRAM
- 拡張: SRAM容量を強化。
フラッシュメモリとPSRAMサポート
- RP2040: 最大16MBの外部フラッシュメモリサポート (QSPI)
- RP2350: 最大32MB (16MB + セカンドチップセレクトで 16MB) の外部フラッシュ/PSRAMサポート
- 拡張: 外部フラッシュメモリおよびPSRAMのサポートを強化。
電源供給
- RP2040: 内蔵LDOでコア電圧を生成
- RP2350: 内蔵スイッチモード電源供給 + 低静止電流LDOモード(スリープ時用)
- 改良: 電力管理機能を強化、低消費電力モードを追加。
セキュリティ機能
- RP2040: 記載なし
- RP2350: ブート署名、OTPに保存された復号鍵、ハードウェアSHA-256アクセラレータなどのセキュリティ機能。
- 新機能: セキュリティ機能を大幅に強化。
ペリフェラル
- RP2040: 2×UARTs, 2×SPI, 2×I2C, 16×PWM, 8×PIO, USB 1.1
- RP2350: 2×UARTs, 2×SPI, 2×I2C, 24×PWM, 12×PIO, 1×HSTX, USB 1.1
- 拡張: PWMチャネルとPIO の数を強化。新たにHSTXを追加。
アマチュア工作家にとっては、クロックの向上とペリフェラルの増加が一番嬉しいところでしょうか。企業の技術者にとっては、セキュリティ機能の追加やスリープ時の低消費電力化に興味があるところかも知れません。
その他
データシートの導入部には記載がありませんが、その他、気になる方もあるかと思いますので補足します。
- ADC(A/D コンバータ): データシートの Introduction 部には記載がありませんが、RP2040 および RP2350 共に ADC を持っています。RP2040 は 4チャネルでしたが、RP2350 では、QFN-80 パッケージ(RP2350B)に限り 8チャネルの ADC をサポートしています。
- 電源電圧: RP2040 では 3.3V の電源(max 3.63V)までしかサポートしていませんでしたが、RP2350 では VREG_VIN ピンにより 5V の電源(max 5.5V)まで対応しているようです。(VREG_AVDD は max 3.63V まで)
註: ただし、IOVDD に 1.8V あるいは 3.3V を供給する必要があるようなので、3.3V のレギュレターを省略するのは難しいかも知れません。 - GPIO の許容入力電圧: IOVDD が 3.3V のとき、5.5V まで許容しています。電源電圧を含めて、より、アマチュア工作家に使いやすい設計となった印象です。
RP2350 の御紹介は、今回はここまでと致します。さらに詳しい情報は追ってお伝えして参ります!