南西フォーラムの IoT 事例研究会に参加しました

投稿者: | 2017年11月9日

Attended an IoT forum and conference held at Aoyama Gakuin University.

昨日開催された、南西フォーラムの IoT 事例研究会と交流会に参加して参りました。

場所は、相模原市淵野辺にある青山学院大学の相模原キャンパスです。2003年に完成したという瀟洒な校舎は紅葉の見頃を迎えつつあり、エネルギッシュな学生さんが闊歩する中で、貴重なお話を伺ってきました。

せっかくの機会なので、まずは研究室を拝見!

研究会の前に、青山学院大学さまの研究室・機器分析センター見学ツアーに参加しました。機器分析センターのほうは、400kV の電子顕微鏡から電子スピン共鳴装置なる機器まで、畑違い(いちおう電子工学出身なんですけど)の私には縁の無い高額そうな設備をいろいろ御説明頂きました。地元の企業からいらしている社員様が、難しそうな御質問をなさっているのでは、私は安心して沈黙します。

しかしその後の研究室拝見は、大いにテンションアップです。4つほどの研究室に御案内いただき、修士課程の学生さんから説明を伺います。第一に感心したのは、研究室前の廊下や入口に大きなパネルが設置されていて、先生や学生さんが取り組まれている研究テーマを、分かりやすく簡潔に説明なさっていることでした。(おそらく、日頃から常設されているパネルなのでしょう。)

もう一つ感心したのは、われわれのような社会人、企業の役員クラスと思われる方々を相手に研究テーマを解説するのが、なんと教授サマではなく(先生は御多忙なのでしょうけど)、若手の研究者様、さらには修士課程の学生さんだったということです。割とスムーズに解説される学生さんもあれば、見るからに緊張が伝わってくる学生さんもあります。専門が異なる私がトンデモない質問をしても、真剣に回答頂きました。これは素晴らしい試みだと感じましたし、学生さんには貴重な経験でしょう。

私の学生時代(20年以上も前)は、どうだったかな。就職活動でも始めると、自分の研究テーマが社会でどのような意味や応用分野を持つのか、既存の技術やデバイスとは何が異なり、実用化の目処はどうなのか、など考えることもありましたが、概ね、学生さんは自分たちの研究テーマを、専門外の方に分かりやすく説明することについては無縁(無関心)だったように思います。ちょっと反省しました。

続いて本命、講演会!

 

その後、大きな講堂に集まり講演を聴講しました。モデレータである先生の導入講義を頂戴した後、中堅企業 2社の若手経営者様(なんと私と同世代)から、IoT の導入事例を伺いました。

まず感じたのは、どの経営者様もプレゼンテーションが秀逸なことです。私も仕事柄、多くのプレゼンテーションを拝見したり、果ては自分でもプレゼンをして参りましたが(何しろそれが仕事だったので)、まったく赤面モノです。

旭鉄工の木村社長さまのプレゼンテーションは、御自身は IT 技術者ではないと公言なさりながら、プレゼン手法はもちろん、フォントの使い方からアイコンやイラストのチョイスが IT 技術者流で、絶妙です。一枚一枚のスライドには、本当に必要な情報だけが、とことんまで削ぎ落とされ凝縮され、プレゼンテーションというのはこういうものだったか!  と感嘆の連続でした。

蛇足ですが、多くのプレゼンターがスライドの背景や枠に凝ってしまうものですが、木村社長のスライドは黒背景の白文字のみ。私も普段から、白地のシンプルなスライドを使うことにしていますが、黒地に白というのはインパクトがあるものだと思いました。(前職時代は、会社のロゴとコーポレートカラーの赤基調のスライドを使ってました。念為。)

あ、内容に触れるのを失念することろでした。備忘を兼ねて、ポイントを列挙させて頂きます。

  • IoT は、現場を知らない企業に外注して解決するものでない。
  • とりあえず、現場を一番知っている自分たちで作ってみよう。
  • 生産性向上と費用削減のためには、人や機械が止まっている時間や、工程のサイクルタイムを正確に知ろう。(ただし、人手ではなく機械に測らせよう
  • たくさんのデータ種類を集めようと欲張らないようにしよう。
  • 導入だけで満足しない。運用に力を入れよう
  • 工場での IoT は、社員を監視することではない。社員が「自分たちの仕事をきちんと見て貰えている」と感じられることなんだ。

素晴らしいお話ばかりでした

さて。こうなると、ファームロジックスは何を生業にしていったら良いのか悩むところですが、やはり

  • 現場に積極的に足を運んで、お客様の隠れたニーズを読み取ること
  • 主体はあくまでも現場であり、IT 技術者は、その実現のために裏方に徹すること
  • 現場のアイデアを決して蔑ろにせず、ただし、一緒に知恵を出すことには遠慮をしない

ということになるかと思います。

続いて、クライムエヌシーデーの高橋社長さまのプレゼンです。高橋社長のプレゼンは、CG 動画を駆使した、これまた分かりやすい御説明です。会社自体が、工場や機械動作の仕組みを CG アニメーション化することを主業務となさっているということで、分かりやすいのは当然なのかも知れません。

われわれは見学会で訪れると、整理整頓された工場で、生産機器が整然と動作しているさまを見ることはできますが、それぞれの設備や機械がどのように動いて製品ができあがってくるのか、というところまではなかなか理解できないものです。高橋社長の CG 動画では、金型機械(特にプレス金型というものが、動きが複雑なのだそうです)の動きを明確に映像化されていて、もしかすると同業者さんが忍び込んでいるかも知れないのに、ここまで見せてしまって良いものだろうか!? と、畑違いの私が心配してしまうほどでした。

プレゼンの最後では、プレス中に部品が破断する様子を視角化する説明を頂きましたが、正常時と異常時のデータの差分を画像化するなど、私の仕事にも関連するものがあり、これまた大いに参考になりました。

高橋社長のお話のポイントは、

  • いままで日本では、工場の生産技術(部品利用技術)が極めて高かったため、金型部品のスマート化が欧米などに比べて遅れてしまった。生産現場でも少子高齢化が進んでいる今日、高価であってもより付加価値の高い金型部品の提供が求められてくるであろう。
  • IoT 化すると、工場や部品メーカーが均質化し差異化が難しくなるという懸念が聞かれるが、そんなことはない。各社各様のノウハウである数値(社長は「しきい値」を例に挙げられてたかな?)が大切であり、そこが各企業の強みとなる。

というところでした。

分科会で「学」(研究機関)の取組みを伺う!

続いて分科会 A に出席しました。ここでは、青山学院大学の先生や研究者さまのプレゼンテーションです。プレゼン資料は企業のものとは一目で異なり、一枚のスライドにぎっしりとチャートや数式の散りばめられた、私としては学生時代の講義を彷彿とさせるものでした。

分科会のテーマは「次世代 Well-being ~ 個別適合をめざした統合的人間計測・モデル化技術の構築(健康福祉分野)~」ということで、簡単に言うと、人の生体情報を、大がかりでなく低コスト、かつ身近にあるセンサー(やスマホ)で捉えることで、生活の質をどのように向上させていくことができるか、というものです。

栗原先生のプレゼンテーションでは、秋葉原などで安価に売られているコンデンサマイクロフォンや圧電素子でも、研究者の学術的知見や工夫次第で、どれだけ高精度に人体のバイタルデータを取得することができるか、という参考になるお話でした。

Lopez 先生のプレゼンテーションでは、人がゴハンを食べ過ぎていることをセンサーでどのように検出するか、咀嚼回数は、身近な骨伝導でマイクで拾える、個々の人間が暑さ寒さをどのように感じているかをどうやって定量化できるか、という普段あまり意識したことのない内容で、興味深いお話でした。

最後に交流会!  ビールは禁止だそうですorz

フォーラムの終わりでは、青山学院大学様の食堂(われわれ学生時代の食堂とはまったく違う、おしゃれな内装!!)で交流会がありました。

参加者が少数であれば、もう少し親密なお話とかできるかと企んでいたのですが、参加者の皆様は全員、「この機会にどれだけ多くの交流、人脈を増やせるか!?」と虎視眈々(失礼)となさっており、フォーラム参加の大多数の方が交流会に出席なさっていました。

しかし、惜しいことに、大学さまがお金をかけて御用意いただいたお料理(buffet 形式)は売れ残りがちで、参加者の皆様は、どなたも「食い気よりもビジネス」ということになり(もちろん私もそうです。マカロニサラダと春巻しか頂けなかった… あ、閑話休題)、食堂の調理人さんはがっかりしたに相違ありません。

あと、大学内ではお酒禁止ということで、乾杯はソフトドリンクであったことを付記しておきます。(青山学院大学の先生が、「構内でお酒を飲むとクビになります」とお話されたとき、大きな笑いが起きました。われわれ学生時代は、というか私は粗野だったので、研究室のウィスキーのボトルを隠し持っていたのは秘密です。時代的には許されていた感じですが。)

まとめ

お酒の思い出話で終わっては恐縮ですので、ちょっとだけマジメなことを書きますと、今回ひとつ学んだことは、現在でも、大学を初めとする教育研究機関が社会に提供する「シーズ」と、企業(特に中小企業)が求めている「ニーズ」には、まだまだギャップがあるな、ということでしょうか。

研究者の方々には、(大変失礼ながら)どのようなシーズが企業に求められているか、まだまだ認識が不十分なところがあるようにも感じますし、(これまた失礼ながら)企業の方々も、漠然とした問題意識は持ちつつも、真の問題が何であり、誰から助言を得ることで問題を解決できるのか、多くの悩みをお持ちのように思います。

青山学院大学様では、リエゾンプロジェクトというものを立ち上げられており、この問題に真摯に取り組まれていらっしゃるというお話に、大いに期待を感じました。繰り返しになりますが、今回も大学院の学生さんが企業の人間を相手に研究テーマを説明するというような、一見小さな試みも、今後の大きな一歩に繋がるのではないでしょうか。私自身も、今後はこのようなフォーラムにもっと積極的に参加したいと感じました。

今日はここまで。おしまい。